※本記事は、運用型広告の支援を行う株式会社シンビが、自社の見解として作成しています。Google広告を中心に、2026年10月2日時点の各公式ヘルプにもとづいて説明します。
この記事のポイント
結論:インハウス化(自社運用)は、手数料を減らす手段というより「判断と作業を社内に持つ」選択です。移すときは一度に切り替えず、段階的に進めます。向くかどうかは、次の3つでおおよそ決まると私たちは考えています。
- 運用に使う時間を、決まった枠で確保できるか
- 成約率や粗利など、判断の材料を広告の担当者が見られるか
- 担当者が1人抜けても止まらないか
インハウス化とは?4つの形で考える
インハウス化とは、代理店に任せていた広告の運用を自社の社員が行う形に切り替えることですが、「全部任せる」か「全部自社でやる」かの二択ではありません。この記事では、月の広告費300万円の架空の学習塾(複数の校舎で、体験授業の申込を広告で集める)を例にします。
社内に持つ範囲で分けた、運用の4つの形
| 形 | 社内が持つもの | 合いやすい状況 |
|---|---|---|
| 全面的に委託 | 予算の決定、成果の確認 | 社内の時間がほとんどない |
| 判断は社内、作業は委託 | 目標値・予算・優先順位の決定 | 判断の材料はあるが、作業の時間は取れない |
| 一部を自社で運用 | 特定の媒体やキャンペーン | 担当者を育てながら移したい |
| 全面的に自社運用 | 判断と作業のすべて | 分担できる人がいて、媒体が絞れている |
手順1:自社に向いているかを確かめる
「まだ早い状態」が多いなら、「判断は社内、作業は委託」から始めましょう。自社運用の利点(設定をすぐ変えられる、手数料がかからない、商品の知識を生かせる)は、下の表の条件がそろって初めて生きます。
インハウス化の向き不向きの目安
| 確かめる項目 | 向いている状態 | まだ早い状態 |
|---|---|---|
| 運用に使う時間 | 毎週決まった時間がある | 空いたときだけ見る |
| 判断の材料 | 入塾率や1件あたりの粗利を、広告の担当者が見られる | 管理画面の数字しかない |
| 人数 | 担当者と確認者で、権限と手順を共有できる | 分かる人が1人だけ |
| 計測とLP | 計測タグやLPを、すぐ直せる | タグの場所も、LPを直す窓口も分からない |
| 媒体と制作の量 | 検索広告が中心で、媒体が1〜2つ | 媒体が多く、動画やバナーの制作が多い |
| 目的 | 判断を速くしたい、知見を残したい | 手数料を減らすことだけ |
手数料の削減自体は悪くありませんが、社内の人件費や成果の変化で、その差が消えることがあります。
手順2:仕事の量と費用を見積もる
自社で運用すると、設定を変える作業のほかに、異常に気づく・数字を読む・社内に説明する仕事が増えます。
自社運用で発生する主な仕事と頻度の例
| 頻度 | 仕事 |
|---|---|
| 毎日 | 費用の使われ方と、計測や配信が止まっていないかの確認 |
| 毎週 | 検索語句の確認と除外(塾なら「塾 バイト」「塾 講師 求人」など)、入札の状態の確認 |
| 毎月 | 目標と実績の比較、レポート、翌月の予算と優先順位の決定 |
| 必要なとき | 計測タグ・LPの修正、新しいキャンペーンの立ち上げ |
工数は、今のアカウントの変更の回数から見積もる
Google広告の変更履歴では、過去2年間の変更を一覧で確認できます。直近3か月に代理店が加えた変更を種類ごとに数えて月の回数にし、1回にかかる時間を掛けます。そこに変更履歴に出ない仕事(毎日・毎週の確認、レポート、打ち合わせ、学習)を足し、担当者の月の勤務時間で割ります。私たちが架空の数字で試算した例では、慣れるまでは勤務時間の60%、慣れた後は約27%でした。
担当者1人ではなく、確認者を加えた2人以上で回しましょう。1人だけだと、休みや退職で運用が止まり、設定のミスに気づく人もいません。
費用は「残る手数料+社内で増える費用」で比べる
社内で増える費用は「担当者と確認者の人件費(社会保険料など会社の負担を含む)× 運用に使う時間の割合」です。学習塾(月の広告費300万円)なら次のとおりです。
運用の形ごとの月の費用(架空の数字)
| 形 | 残る手数料 | 社内の費用 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 全面的に委託 | 60万円 | 5万円 | 65万円 |
| 判断は社内、作業は委託 | 60万円 | 22万円 | 82万円 |
| 一部を自社で運用 | 48万円 | 32万円 | 80万円 |
| 全面的に自社運用 | 0円 | 37万円 | 37万円 |
- 移行の途中は、費用が増える。手数料が残ったまま、社内の費用が増えるためです。途中の2つの形を3か月ずつ続けると上乗せは合計96万円で、月28万円の差で取り戻すのに約3.4か月かかります
- 広告費が小さいと、自社運用は割高になる。同じ前提で月100万円の塾なら、全面委託の25万円に対し、自社運用は37万円です
手数料の差は、成果のぶれより小さいことがある
この塾の体験申込1件あたりの粗利を4万円とすると、月28万円の差は月7件分です。件数は実力が同じでも月ごとに上下するので、7件分の差は月単位の比較ではまず見分けられません。そのため、段階は件数ではなく「手順が回っているか」で進めるのが私たちの考えです。
関連記事:リスティング広告の代理店の選び方(損益分岐の考え方、代理店を替える場合の選び方)
手順3:権限・支払い・計測を自社の手元に置く
最初にやるのは、運用の作業ではありません。後回しにすると、代理店との契約を終えた日に広告が止まったり、タグを直せなくなったりします。
移行の前に確かめること
| 確かめること | 当てはまったらすること |
|---|---|
| 自社の担当者が「管理者」の権限を持っているか | なければ、代理店に依頼して2人を管理者にしてもらう |
| 代理店のMCCアカウント(複数のアカウントをまとめて管理するアカウント)が「オーナー」になっていないか | 自社の管理者を外されないよう、扱いを取り決める |
| 代理店のMCCで作った配信リストや計測タグを使っていないか | 解除の前に、自社のアカウントでリストやタグを作り、置き換える |
| 設定変更の提案が、自動で適用されていないか | どの種類がオンかを確かめ、続けるか決める |
支払いの切り替えを先に、リンクの解除は最後に
代理店が「毎月の請求書発行」で広告費を払っているなら、支払い元である代理店のMCCアカウントとのリンクを解除すると、広告の掲載が止まります。解除の前に、前払い・後払いに切り替えるか、自社で毎月の請求書発行を申し込むかを決めます。前払い・後払いで代理店の支払い情報が使われているなら、「請求先の変更」を行います。
どの場合も、支払いの切り替えを先に済ませ、リンクの解除は最後にします。最後の月の費用をどちらが払うかも、代理店と先に決めておきます。
計測タグとアナリティクスの権限も移す
見落としやすいのが、Google タグ マネージャーと Google アナリティクスの権限です。タグ マネージャーのヘルプは、管理者を2人以上置き、アカウントの管理を外部の代理店ではなく組織内の担当者が行うよう勧めています。代理店の担当者だけが管理者なら、契約を終える前に自社の担当者を加えてください。
契約で確かめること
LP・ドメイン・サーバーの名義と管理者、代理店が作った広告文・バナー・LPを契約後も使える範囲、解約の予告期間を確かめます。
手順4:条件を満たしたら、次の段階に進む
期間で区切らず、条件を満たしたら次の段階に進みます。
段階的なインハウス化の進め方
| 段階 | 社内でやること | 次に進む条件 |
|---|---|---|
| 1. 手元に置く | 権限・支払い・計測・契約の確認 | 自社の管理者が2人以上いて、支払いとタグを自社で管理できる |
| 2. 判断を移す | 目標値・予算・優先順位の決定 | 翌月の方針を書け、代理店の提案と比べて理由を説明できる |
| 3. 一部の運用を移す | 影響の小さいキャンペーン(塾なら1校舎の分)か、1つの媒体 | 2〜3か月、方針と結果の記録がそろい、計測の点検を自社で行えた。成果が大きく悪化していない |
| 4. 形を決める | 全部を移すか、併用を続けるかの決定 | ― |
段階4では、「全部を移す」が正解とは限りません。運用は社内、新しい媒体の立ち上げは外部という併用もあります。
移した直後は、設定を一度に変えない
担当が替わると入札戦略や構成を見直したくなりますが、自動入札の戦略を新しく作ったり切り替えたりすると「学習中」になり、その間の成果は安定しません。件数は、広告費や季節が近い期間どうしで比べます。塾なら春の入塾や夏期講習の時期を、ふだんの月と比べないようにします。差が小さければ判断を保留し、大きな差が出ても、予算・季節・学習中の期間が重なっていないかを先に確かめます。
関連記事:自動入札の学習期間(「学習中」になる変更と、ならない変更)/リスティング広告のCPA改善(CPAが悪化したときに試す打ち手の順番)
よくある質問
インハウス化で失敗しやすいのはどんな場合?
私たちの考えでは、手数料の削減だけが目的で社内の費用を数えていない、分かる人が1人しかいない、権限や支払いを後回しにして契約の終了日に広告が止まる、移した直後に設定を一度に変える、の4つが典型です。
未経験の担当者は、最初の1か月に何をすればよいですか?
設定を変える前に、今のアカウントを読むことから始めます。変更履歴で代理店が何をどれくらい変えているかを数え、レポートで数字の動きと説明の対応を追ってみてください。
インハウス化した後、代理店に戻すことはできますか?
広告アカウントが自社の名義で、自社に管理者の権限があれば戻せます。リンクを解除しても履歴は失われないので、作り直す必要はありません。
まとめ:状況別に、次にやること
| いまの状況 | 次にやること |
|---|---|
| インハウス化するか迷っている | 向き不向きの表で確かめ、変更履歴から工数を、自社の契約で費用を見積もる |
| 移すと決めた | 権限・タグの管理者・支払い・契約を確かめる。リンクの解除は最後 |
| まだ作業の時間が取れない | 「判断は社内、作業は委託」で、目標値と予算の判断から移す |
| 一部を自社で運用し始めた | 設定を一度に変えない。差が小さければ評価を保留する |
補足と出典
- シンビは運用の代行とインハウス化の支援の両方に関わるため、どちらかに寄せない書き方を心がけています。4つの形、向き不向きの目安、仕事の頻度、段階と進む条件は私たちの考えです
- 学習塾の費用の表は架空の数字です。担当者の会社の負担を月50万円、確認者を月70万円、手数料を広告費の20%(相場ではなく仮の値)と置き、制作の費用は外しています。社内の費用は運用に使う時間の割合から計算し、全面委託は担当者10%、全面自社運用は担当者60%と確認者10%です。「一部を自社で運用」は、広告費の2割を移し、手数料も8割になると置きました
- 最低手数料などで手数料が下がらない契約なら、上乗せは合計132万円、取り戻すのに約4.7か月かかります。自社の契約の額に置き換えてください
- 変更履歴には、自動システムや代理店のツールによる変更が、別の名前で表示されることがあります。どのツールを使っているかを代理店に確かめてください
- 自社で毎月の請求書発行を使うには、会社の登録から1年以上などの要件があります。別の代理店へ移す手続きは今の支払い元のアカウントで行うとされているため、自社へ移す場合も代理店側の操作が要るか確かめてください
- 請求先を変更した後は、広告主の身元などを確かめる手続きを改めて求められます
- Yahoo!広告の権限や支払いの手続きは扱っていません。段階の分け方や、先に確かめる考え方は同じです
- 出典(Google 広告 ヘルプなど):変更履歴について、Google 広告アカウントのアクセス権の概要、クライアント アカウントのオーナー権限について、MCC アカウントからのアカウントのリンク解除について、最適化案の自動適用について、お支払い元アカウント: 定義、お支払い情報を再設定する、毎月の請求書発行について、お支払いプロファイルを変更する、ユーザーと権限の管理(タグ マネージャー)、ユーザーの追加、編集、削除(アナリティクス)
移すか、任せるかの整理から相談できます
株式会社シンビは、福岡を拠点に、運用型広告を中心としたWebマーケティングを支援しています。運用の代行だけでなく、可能な範囲でインハウス化の支援もお引き受けしています。
「自社運用に向いているか分からない」という段階でも、お気軽にご相談ください。
広告運用について相談する